はじめに:2025年、巳年の相場はどうなるのか?
株式市場には、古くから伝わる様々な「相場格言」が存在する。その中でも特に有名なものの一つが、十二支を用いた干支相場の格言「辰巳天井(たつみてんじょう)」である。これは、辰年(たつどし)に株価が大きく上昇し、翌年の巳年(みどし)に天井を付ける(高値をつける)という経験則を指す。
2024年の辰年は、日経平均株価が史上最高値を更新するなど、まさに格言通りの力強い上昇相場となった。この勢いは2025年の巳年まで続くのか、それとも格言通り天井を迎え、下落に転じるのか。投資家の関心は、来たる2025年の日本株市場の動向に集まっている。
本記事では、過去のデータに基づき「辰巳天井」の信憑性を徹底的に検証し、2025年の日本株市場の可能性と、新NISAを活用した賢い投資戦略について考察する。
干支相場とは何か?「辰巳天井」のアノマリーを解き明かす
干支相場とは、十二支の各年における株式市場の値動きの傾向を経験則としてまとめたアノマリー(理論的根拠はないが観測される市場の規則性)である。科学的根拠に裏付けられたものではないが、多くの市場参加者の心理に影響を与え、自己実現的に相場が動く一因となる可能性も指摘されている。
「辰巳天井」以外にも、干支にまつわる相場格言は数多く存在する。
- 「申酉騒ぐ(さるとりさわぐ)」:申年と酉年は相場が荒れやすく、大きく変動する傾向がある。
- 「戌亥の借金、未で返せ(いぬいのしゃっきん、ひつじでかえせ)」:戌年と亥年は相場が安く、未年にかけて上昇するため、戌亥で買い未で売ると良いとされる。
- 「丑つまずき、寅千里を走り、卯跳ねる」:丑年は低迷し、寅年に回復基調となり、卯年に大きく飛躍する。
これらの格言は、あくまで過去の経験則であり、一種のジンクスとして捉えるべきだが、市場の季節性やサイクルを考える上での興味深い参考材料となる。
過去データで徹底検証:「辰巳天井」は本当に起こるのか?
では、実際のデータで「辰巳天井」の傾向を見てみよう。ここでは、戦後の日経平均株価(またはそれに準ずる指数)の年間騰落率を基に、過去の辰年と巳年のパフォーマンスを検証する。
過去の「辰巳」のパフォーマンス(日経平均株価 年間騰落率)
- 1952年(辰):+12.0% → 1953年(巳):-3.4%:辰年で上昇後、巳年で下落。格言に近い動き。
- 1964年(辰):+11.3% → 1965年(巳):+13.2%:辰巳ともに上昇。格言とは異なる動き。
- 1976年(辰):+12.7% → 1977年(巳):+6.3%:辰巳ともに上昇したが、巳年の方が上昇率は鈍化。
- 1988年(辰):+39.9% → 1989年(巳):+29.0%:バブル経済の絶頂期。辰巳ともに大幅上昇。巳年の年末に史上最高値を付けた後、翌年から下落に転じたため、「天井」という意味では格言通りとも言える。
- 2000年(辰):-27.2% → 2001年(巳):-23.5%:ITバブル崩壊期。辰巳ともに大幅下落。格言とは全く逆の動き。
- 2012年(辰):+22.9% → 2013年(巳):+56.7%:アベノミクス相場の開始。辰年で大きく上昇し、巳年でさらに爆発的な上昇を見せた。天井ではなく、上昇が加速した年となった。
データを見ると、「辰年に上昇し、巳年に天井を付けて下落する」というパターンが必ずしも当てはまるわけではないことがわかる。特に、アベノミクスのような強力な金融緩和や経済政策が実施された局面では、アノマリーを凌駕する強い相場が形成される傾向がある。しかし、1989年の例のように、巳年に歴史的な高値を付けたケースも存在し、完全に無視できるものでもない。データからは、「辰年の上昇の勢いが巳年の前半まで続くケースが多いが、後半にかけては警戒が必要になる」という解釈も可能だろう。
2025年の日本株市場を取り巻く現実的な要因
干支相場というアノマリーだけに頼るのは危険である。2025年の日本株の行方を占う上では、以下のような現実的な経済・金融要因を冷静に分析する必要がある。
1. 金融政策の正常化
日本銀行はマイナス金利を解除し、金融政策の正常化へ舵を切った。2025年にかけて追加利上げが行われるかどうかが最大の焦点となる。利上げペースが速まれば、企業収益や株式市場にとって逆風となる可能性がある。
2. 企業業績と賃金の動向
日本企業は歴史的な高水準の利益を上げており、株価を支える要因となっている。持続的な賃上げが実現し、デフレからの完全脱却と内需の活性化につながるかどうかが重要となる。これが実現すれば、日本株の新たな上昇ドライバーとなるだろう。
3. 海外経済と地政学リスク
2024年11月の米国大統領選挙の結果は、2025年以降の世界経済や通商政策に大きな影響を与える。また、ウクライナや中東情勢などの地政学リスクも依然として市場の不確実性要因として残る。
4. 新NISAによる資金流入
2024年から始まった新NISAは、個人投資家の資金を株式市場に呼び込む大きな力となっている。この制度的な買い需要は、2025年以降も日本株市場を下支えする重要な要因であり続けるだろう。
アノマリーを踏まえた2025年のNISA投資戦略
これらの状況を踏まえ、「辰巳天井」というアノマリーを意識しつつも、それに振り回されないための賢明な投資戦略を考えたい。
結論から言えば、基本に立ち返り「長期・積立・分散」の原則を貫くことが最も重要である。
相場の天井を正確に予測することはプロでも不可能だ。「辰巳天井」を過度に意識して、2025年に全ての資産を売却したり、投資を控えたりするのは機会損失につながるリスクがある。むしろ、新NISAの非課税メリットを最大限に活用し、時間分散を図りながらコツコツと積立投資を継続することが、将来の資産形成において有効な戦略となる。
もし相場が格言通りに調整局面を迎えたとしても、積立投資であれば、価格が下がった局面でより多くの口数を購入できるため、長期的に見れば平均購入単価を引き下げる効果(ドルコスト平均法)が期待できる。日本株への投資を検討する際も、特定の銘柄に集中するのではなく、幅広い銘柄に分散された投資信託やETF(上場投資信託)を中心にポートフォリオを組むことがリスク管理の観点から望ましい。
まとめ:アノマリーは話の種。行動こそが未来を創る
「辰巳天井」は、投資家心理に影響を与える興味深いアノマリーではあるが、絶対的な法則ではない。過去のデータは、それが当たることもあれば、外れることもあるという事実を示している。重要なのは、アノマリーに一喜一憂するのではなく、それを市場の季節性を考える一つの参考情報として捉え、自らの投資哲学と長期的な目標に基づいた冷静な判断を下すことである。
2025年の相場がどう動くかを完璧に予測することは誰にもできない。だからこそ、予測に頼るのではなく、どのような相場環境でも着実に資産を育てるための仕組みを構築することが肝要だ。まずはご自身のポートフォリオを見直し、新NISAを活用した長期的な資産形成プランを具体的に立てることから始めてみてはいかがだろうか。行動することこそが、未来の資産を築く第一歩となる。
