新NISA制度の登場により、投資への関心が一層高まっている。中でも、毎月コツコツと積み立てられる「つみたて投資枠」は、初心者から経験者まで幅広い層に支持されている。しかし、このつみたて枠で「高配当」を狙う投資戦略は、果たして有効なのだろうか。本稿では、つみたて枠における高配当戦略の是非について、論理的に解説していく。インカムゲイン(配当金や分配金)を重視し、非課税メリットを最大限に活かしたいと考える読者にとって、必読の内容となるだろう。
つみたて投資枠の特性と高配当戦略の相性
まず、つみたて投資枠の特性を理解することが重要である。つみたて枠は、年間120万円(月10万円)まで、最長20年間非課税で投資できる制度である。対象商品は、金融庁が定めた基準を満たした、手数料が低水準で、長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託に限られている。この「長期・積立・分散」という原則が、高配当戦略との相性を考える上での鍵となる。
一方、高配当戦略とは、一般的に株価に対して配当金の割合(配当利回り)が高い株式や投資信託に投資する戦略である。インカムゲインを重視するため、定期的な収入が見込める点が魅力とされる。しかし、高配当銘柄には、成長性が限定的であったり、株価の変動リスクが高かったりするケースも少なくない。
高配当ファンドがつみたて枠に向かないとされる理由
つみたて枠で高配当ファンドが推奨されにくい主な理由は、以下の3点に集約される。
1. 非課税メリットの享受効率が低い可能性
つみたて枠の最大の魅力は、運用益だけでなく、分配金(配当金)に対しても非課税となる点である。しかし、高配当ファンドの多くは、分配金を毎月または頻繁に支払う「毎月分配型」を採用している。毎月分配されるということは、その都度、投資元本が減少していくことを意味する。長期・積立投資においては、複利効果を最大限に活かすために、分配金を再投資に回すことが極めて重要である。毎月分配されると、その都度、再投資の手間が発生したり、少額ずつの再投資では手数料の負担が相対的に大きくなったりする可能性がある。
また、毎月分配される資金は、投資家にとっては「インカム」として手元に入るが、非課税枠を消費してしまう。本来、非課税枠は長期的な値上がり益(キャピタルゲイン)に対してこそ、その威力が発揮される。配当金のようなインカムゲインは、比較的税率が低い場合も多く、非課税枠をインカムゲインで埋めてしまうのは、制度のメリットを十分に活かせない戦略と言える。
2. 分配金再投資の非効率性
前述の通り、長期投資で複利効果を最大化するには、分配金を再投資することが不可欠である。しかし、毎月分配される高配当ファンドの場合、分配金が支払われるたびに、その都度、投資信託を購入することになる。これは、購入手数料(信託報酬とは別に発生する場合)がかかる可能性があり、特に少額の分配金を再投資する際には、手数料負けしてしまうリスクも否定できない。つみたて枠の対象商品は、購入手数料が無料(ノーロード)のものが多いが、それでも毎月の購入手続きは手間がかかる。
さらに、分配金が再投資される際、その時点での基準価額で購入されるため、市場の状況によっては不利な価格で購入してしまう可能性もある。積立投資は、ドルコスト平均法により、高値掴みを避け、平均購入単価を平準化する効果が期待できるが、毎月分配金を再投資するとなると、その効果が薄れる懸念がある。
3. 成長性の限定とリスク
高配当を維持できる企業やファンドは、一般的に成熟企業であることが多い。成熟企業は、安定した収益を上げやすい反面、大幅な成長が見込みにくい傾向がある。つみたて枠は、長期投資を前提としており、その非課税期間は最大20年にも及ぶ。この長期間において、インカムゲインだけでなく、キャピタルゲイン(値上がり益)も追求することが、資産を大きく増やすためには重要である。高配当戦略に偏りすぎると、将来的な成長の機会を逃してしまう可能性がある。
また、高配当を維持するために、企業が無理な財務政策をとっている場合や、業績が悪化しても配当を維持するために内部留保を切り崩している場合もある。このようなファンドは、配当利回りは高くても、株価が大きく下落するリスクを抱えている可能性がある。つみたて枠では、元本保証はないため、リスク管理も重要となる。
それでも高配当戦略を「つみたて枠」で実行する際の注意点
上記のような理由から、一般的には高配当ファンドをつみたて枠で積極的に推奨する声は少ない。しかし、どうしてもインカムゲインを重視したい、あるいは特定の高配当ファンドに魅力を感じるといった理由で、つみたて枠での高配当戦略を検討したい場合、以下の点に留意する必要がある。
1. 分配金受取型ではなく、再投資型を選ぶ
もし高配当ファンドを選ぶのであれば、分配金を自動的に再投資してくれる「分配金再投資型」のファンドを選ぶことが絶対条件となる。これにより、複利効果を最大限に活かすことができ、ドルコスト平均法のメリットも享受しやすくなる。ただし、つみたて枠の対象商品の中には、毎月分配型ファンドが多数含まれているため、選択肢は限られる可能性がある。購入前に、必ずファンドの目論見書などで分配金の方針を確認すること。
2. 信託報酬(手数料)を徹底的に比較する
高配当ファンド、特にアクティブファンドの中には、信託報酬が高めに設定されているものがある。長期で積み立てる場合、信託報酬は運用成績に大きな影響を与える。つみたて枠の対象商品は、低コストであることが求められるが、それでもファンド間の差は存在する。少しでも有利な条件のファンドを選ぶために、信託報酬は必ず比較検討すべきである。
3. 分配金以外の成長性も考慮する
高配当であることは魅力だが、それだけでファンドを選ばないこと。ファンドの運用方針や、組み入れられている銘柄の成長性、過去の運用実績などを総合的に判断する必要がある。配当利回りだけでなく、トータルリターン(値上がり益+分配金)で評価することが重要である。
4. NISA口座とは別に、特定口座での運用も検討する
どうしても毎月分配金を受け取りたい、あるいは高配当戦略のデメリットを理解した上で実行したいというのであれば、つみたて枠ではなく、特定口座(あるいは一般口座)で運用することも選択肢として考えられる。特定口座であれば、つみたて枠の対象商品に縛られることなく、より多様な高配当ファンドを選択できる。ただし、その場合は分配金に対して通常通り課税されることになる。
結論:つみたて枠での高配当戦略は慎重な判断が必要
新NISAのつみたて投資枠は、長期・積立・分散投資を通じて、非課税メリットを享受するための優れた制度である。高配当戦略は、インカムゲインを重視する投資家にとっては魅力的な選択肢となりうるが、つみたて枠の特性、特に複利効果の最大化や非課税メリットの効率的な活用という観点からは、必ずしも最適な戦略とは言えない。毎月分配されるファンドでは、複利効果が薄れ、非課税枠を効率的に使えない可能性が高い。
もし高配当戦略を「つみたて枠」で実行するのであれば、分配金再投資型のファンドを選び、信託報酬やファンドの成長性も十分に考慮するなど、極めて慎重な判断が求められる。多くの投資家にとっては、むしろインデックスファンドなどを活用し、長期的な値上がり益(キャピタルゲイン)を狙う方が、つみたて枠のメリットを最大限に引き出せる可能性が高いだろう。ご自身の投資目標やリスク許容度を十分に理解した上で、最適な投資戦略を選択することが肝要である。

