その計算、本当に合ってる?投資信託の「利回り」を正しく評価する3つの重要ポイント
NISAなどを活用して投資信託を始めたものの、「今のところプラスだけど、この成績は本当に良いのだろうか?」「他の人と比べてどうなんだろう?」といった疑問を抱えている初心者の方は少なくないだろう。画面に表示される損益額に一喜一憂するだけでは、投資の本質的な成果を測ることはできない。重要なのは、客観的な指標を用いて自分の投資パフォーマンスを正しく評価し、次のアクションに繋げることである。
本記事では、投資成果を評価する上で不可欠な「利回り」の正しい計算方法から、パフォーマンスを多角的にチェックするための3つの重要ポイントまで、専門家の視点から論理的に解説する。この記事を読めば、あなたは自身の投資成績を客観的に分析し、より賢明な投資判断を下せるようになるはずだ。
そもそも「利回り」とは?単純な利益率との違い
投資成果を語る際、「利益率」と「利回り」という言葉が混同されがちだが、これらは明確に異なる概念である。まず、この違いを正確に理解することから始めよう。
利益率と利回り(年率)の定義
利益率とは、投資元本に対してどれだけの利益が出たかを示す割合のことだ。例えば、100万円を投資して110万円になった場合、利益は10万円なので利益率は10%となる。しかし、この成果を出すのに1年かかったのか、それとも5年かかったのかによって、パフォーマンスの評価は大きく変わる。
そこで重要になるのが利回り(年率リターン)である。これは、利益を1年あたりの割合に換算した指標だ。これにより、運用期間が異なる投資商品のパフォーマンスを同じ土俵で比較することが可能になる。
基本の利回り計算式(一括投資の場合)
一括投資の場合の基本的な年率利回りは、以下の式で算出できる。
利回り(%) = ( (現在の評価額 ÷ 投資元本) ^ (1 ÷ 運用年数) – 1 ) × 100
少し複雑に見えるかもしれないが、簡易的には以下の式でも近い値を求められる。
簡易的な利回り(%) ≒ (利益額 ÷ 投資元本) ÷ 運用年数 × 100
例を挙げてみよう。100万円を投資し、3年後に130万円になったとする。利益額は30万円だ。
簡易計算: (30万円 ÷ 100万円) ÷ 3年 × 100 = 10%
この投資の年率は約10%であったと評価できるわけだ。
つみたて投資の利回りは「トータルリターン」で確認
しかし、NISAなどで毎月コツコツ積立投資を行っている場合、事態は少し複雑になる。投資のタイミングが分散され、投資元本が常に変動するため、上記の単純な計算式では正確な利回りを算出することが難しい。
そこで活用すべきなのが、多くの証券会社が提供している「トータルリターン」という指標だ。トータルリターンとは、現在の評価損益に、これまでに受け取った分配金(再投資されたものも含む)をすべて合算した、投資開始来の総合的なリターンを示すものである。手数料なども考慮されているため、投資家が実際に得た、より実態に近い成果と言える。多くの証券会社のマイページでは、このトータルリターンが金額と比率(%)で表示されているため、まずはこの数値を確認する習慣をつけよう。
あなたの投資は成功?成果を正しく評価する3つのチェックポイント
自分のトータルリターンを把握したところで、次はその数字が「良い」のか「悪い」のかを判断する必要がある。ここでは、その評価軸となる3つの重要なポイントを解説する。
ポイント1:比較の土台となる「ベンチマーク」を意識する
自分の投資成績を評価する上で最も重要なのが、「比較対象」を持つことである。その比較対象となるのが「ベンチマーク」だ。ベンチマークとは、投資信託が運用目標とする特定の市場指数(インデックス)のことである。
例えば、あなたが日経平均株価に連動することを目指すインデックスファンドに投資しているとしよう。この場合、ベンチマークは日経平均株価だ。もし、あなたのファンドのトータルリターンが年間+10%だったとしても、同期間の日経平均株価が+12%上昇していたのであれば、あなたの投資は「市場平均に負けている」と評価できる。逆に、日経平均株価が+8%の上昇に留まっていれば、「市場平均を上回る良い成績」と判断できる。
アクティブファンドの場合も同様に、目標とするベンチマーク(例えばTOPIXやS&P500など)が設定されている。アクティブファンドは市場平均を上回るリターンを目指すものだからこそ、ベンチマークとの比較は必須である。自分が投資しているファンドのベンチマークが何であるかを必ず確認し、その騰落率と比較する癖をつけよう。
ポイント2:リターンを蝕む「信託報酬」の影響を理解する
投資信託のリターンは、様々なコストが差し引かれた後の数値である。その中でも、保有している間ずっと支払い続けるコストが「信託報酬」だ。
信託報酬は、投資信託の運用・管理にかかる経費として、純資産総額から日々差し引かれる。年率0.1%や1.5%といった形で示されるが、このわずかな差が長期的なリターンに絶大な影響を及ぼす。例えば、同じベンチマークに連動するインデックスファンドが2つあり、リターンが全く同じだったとしても、信託報酬が低いファンドの方が最終的に手元に残る利益は大きくなる。
特に、長期での資産形成を目指すNISAにおいては、このコスト意識が極めて重要だ。自分のファンドがベンチマークに対して劣後している場合、その原因の一つが高い信託報酬にある可能性も考えられる。リターンを確認する際は、必ずコストもセットで評価すべきである。
ポイント3:リスク(価格変動の大きさ)を許容できているか
高いリターンには、相応のリスク(価格変動の大きさ)が伴うのが投資の原則だ。年間リターンが+30%を記録することもあれば、-20%になることもあるのが株式ファンドの世界である。重要なのは、その価格変動の振れ幅が、自分自身の許容範囲内に収まっているかどうかだ。
たとえ平均利回りが高くても、日々の価格変動に精神的なストレスを感じ、落ち着かない日々を送るようでは、その投資はあなたにとって適切とは言えない。自分のリスク許容度を把握し、それに見合った資産配分(ポートフォリオ)を組むことが、長期投資を継続する上での鍵となる。
リターンに影響を与えるその他の要因
トータルリターンやベンチマーク、コスト以外にも、最終的な手取り額に影響を与える要素はいくつか存在する。
- 税金: 通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかる。しかし、NISA口座内での利益は非課税となるため、課税口座で運用するよりも手取り額が大きく増える。これはNISAの最大のメリットであり、リターン評価においても考慮すべき点だ。
- 為替レート: 米国株式や全世界株式など、外国資産に投資するファンドの場合、リターンは為替レートの変動に大きく影響される。円安になれば円換算での資産価値は上昇し、円高になれば下落する。近年のリターンが好調な一因に、円安が寄与している可能性も念頭に置いておく必要がある。
- 分配金の方針: 分配金を出すファンドか、出さずに再投資するファンドかによっても、長期的なリターンは変わってくる。分配金を再投資することで複利効果が最大化され、一般的にはトータルリターンが高くなる傾向がある。
まとめ:正しい評価が未来の資産を育てる
投資信託の成果評価は、単に損益額を眺めるだけでは不十分だ。本記事で解説したように、以下の3つのステップで多角的に分析することが不可欠である。
- 証券口座で分配金込みの「トータルリターン」を確認し、年率利回りを把握する。
- そのリターンを、ファンドが目標とする「ベンチマーク」と比較し、相対的なパフォーマンスを評価する。
- リターンに影響を与える「信託報酬」などのコストを理解し、その水準が適切か判断する。
これらの客観的な評価軸を持つことで、あなたは感情的な判断から解放される。そして、保有を継続すべきか、別の商品に乗り換えるべきかといった、より論理的で建設的な投資判断を下すことができるようになるだろう。