投資を始めたばかりの初心者にとって、保有する投資信託の評価額がマイナスになる状況は、大きな精神的負担となるであろう。特に、購入時よりも価値が下がっている「含み損」を目の当たりにすると、慌てて売却して損失を確定させたい、あるいは今後のさらなる下落を恐れて積立を停止したい、といった衝動に駆られるかもしれない。しかし、このようなマイナスの状況こそ、投資家としての冷静な判断が求められる場面である。本稿では、投資信託がマイナスになった際に、なぜ積立継続が有利であるのか、その心理的側面と理論的側面から解説していく。
投資心理の罠:含み損との向き合い方
人間には、利益が出ている状態よりも損失が出ている状態の方が、心理的に強く影響を受ける「損失回避性」という性質がある。つまり、同じ金額であっても、得することよりも損することを避けたいという心理が働くのだ。この心理が、含み損を抱えた投資信託に対して、過剰な恐怖や不安を感じさせ、非合理的な行動を引き起こす原因となる。
特に、市場が大きく下落する「暴落」時などは、メディアの悲観的な報道も相まって、投資家の心理は極端に揺さぶられやすい。このような状況下で、「これ以上損をしたくない」という感情に流されて積立を停止したり、保有資産を売却したりする行動は、長期的な資産形成の観点からは、しばしば機会損失につながる。
投資を辞めるべきではない理由:冷静な判断が成長の糧となる
マイナスの局面で投資を辞めてしまうことは、数々の機会を失うことを意味する。その理由を以下に詳述する。
1. 長期的な市場の成長性
歴史を振り返れば、株式市場は短期的には大きく変動するものの、長期的には経済成長とともに右肩上がりの傾向を示してきた。暴落は一時的な現象であり、過去の多くの危機を乗り越えて市場は回復・成長してきた実績がある。この長期的な視点を持たずに、短期的なマイナスに一喜一憂して投資をやめてしまうのは、愚策と言わざるを得ない。
2. ドルコスト平均法の効果
積立投資の強力な武器となるのが「ドルコスト平均法」である。これは、毎月一定額をコツコツと購入していく方法だ。市場が下落している時、つまり含み損が出ている時こそ、ドルコスト平均法は真価を発揮する。
具体的には、市場が低い時には同じ金額でもより多くの口数を購入でき、市場が回復して価格が上昇した際には、その購入した口数が増えている分だけ大きなリターンが期待できる。逆に、市場が高い時に購入を停止してしまうと、安値で仕込む機会を逃すことになる。マイナスの時に積立を続けることは、将来的なリターンを最大化するための、最も合理的な戦略なのである。
3. 感情的な判断の回避
市場が大きく動く時、投資家の感情は最も揺さぶられやすい。恐怖や不安から「暴落」時に売却し、逆に市場が加熱している時に「乗り遅れたくない」という焦りから高値掴みをしてしまう。このような感情に任せた判断は、投資における最も避けたい行動パターンである。積立投資を自動化し、感情を挟む余地をなくすことで、こうした非合理的な行動を防ぎ、規律ある投資を継続することができる。
4. 証券口座の維持コスト
投資信託を保有し続ける限り、通常、管理手数料(信託報酬)はかかる。しかし、積立を停止して口座を放置しても、口座維持手数料などがかかる場合もある。また、一度投資をやめてしまうと、再度投資を再開する際の心理的なハードルは格段に高くなる。マイナスの時こそ、淡々と積立を続けることが、将来的な資産形成の道筋を維持することに繋がる。
マイナス局面での具体的な行動指針
では、具体的にマイナスの局面でどのように行動すべきか。
まず、自身の投資目的とリスク許容度を再確認することだ。長期的な資産形成を目指しているのか、短期的な利益を狙いたいのか。そして、どの程度の価格変動までなら許容できるのか。この点を明確にしておくことで、一時的な市場の変動に惑わされにくくなる。
次に、ポートフォリオのバランスを見直すことも有効である。もし、特定の資産クラスへの集中投資で大きな含み損を抱えているのであれば、分散投資の観点からポートフォリオのリバランスを検討すべきかもしれない。ただし、これは市場の状況に応じて冷静に行う必要があり、感情的な判断で行うべきではない。
そして何より重要なのは、ドルコスト平均法による積立投資を、マイナスの時こそ淡々と継続することである。市場が低迷している時に購入できる口数が増えるという事実は、将来の大きなリターンに繋がる可能性を秘めている。暴落は、長期投資家にとって「安く仕込めるチャンス」と捉えるべきなのだ。
まとめ:冷静な判断が資産を育てる
投資信託がマイナス、つまり含み損を抱えている状況は、多くの投資家にとって精神的に厳しい局面である。しかし、そのような時こそ、感情に流されず、ドルコスト平均法による積立継続を断行することが、長期的な資産形成において極めて重要である。暴落などの一時的な市場の変動に惑わされず、冷静に、そして規律を持って投資を続けること。それが、将来の資産を大きく育てるための、最も確実な道筋となるであろう。
