為替ヘッジあり?なし?2025年を見据えた海外株式投信の賢い選び方【NISA対応】
近年の為替市場は、歴史的な円安水準で推移しており、多くの投資家がその動向に注目している。特にNISAなどを活用して海外株式への投資を行う際、「為替の変動が資産にどう影響するのか?」という不安、すなわち為替リスクは無視できない要素である。円安は海外資産の価値を円換算で押し上げる一方、将来の円高局面では資産が目減りする可能性も否定できない。
この記事では、為替変動が投資信託のリターンに与える影響を整理し、そのリスクをコントロールするための選択肢である「為替ヘッジ」の有無について、投資家が自身の目的やリスク許容度に応じて最適な判断を下せるよう、専門的な視点から具体的に解説する。2025年以降の市場を見据え、賢明な投資判断を下すための一助となれば幸いである。
為替リスクとは?円安・円高がもたらす光と影
海外の株式や債券などで運用する投資信託は、その国の通貨(米ドル、ユーロなど)で資産を保有している。そのため、我々が日本円で投資・換金する際には必ず為替レートの換算が行われる。この為替レートの変動によって、投資信託の円換算での資産価値が変動することを為替リスクと呼ぶ。
例えば、米国株に投資する投資信託を考えてみよう。投資対象である米国株の価格が10%上昇したとしても、同時に為替レートが1ドル=150円から135円へと10%の円高・ドル安に振れた場合、円換算でのリターンはほぼゼロになってしまう。逆に、株価が横ばいでも、1ドル=150円から165円へと10%の円安・ドル高が進めば、為替差益だけで約10%のリターンが得られることになる。
このように、海外投資において為替変動はリターンを大きく左右する要因となる。近年の円安局面は、海外資産を持つ投資家にとって追い風となり、一種の円安対策として機能してきた。しかし、この流れがいつまでも続く保証はなく、将来の円高転換に備える視点も必要不可欠である。
為替リスクをコントロールする「為替ヘッジ」という選択肢
為替変動による不確実性を避けたいと考える投資家のために用意されているのが「為替ヘッジ」という仕組みだ。投資信託には、同じ投資対象であっても「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」の2つのコースが設定されていることが多い。
為替ヘッジの仕組みを簡潔に解説
為替ヘッジとは、一言で言えば「将来の為替レートをあらかじめ予約しておく」取引である。具体的には、「先物為替予約」という手法を用いて、外貨建て資産を将来円に交換する際のレートを現時点で固定する。これにより、将来の為替市場が円高に進んでも円高に進んでも、あらかじめ決めたレートで交換できるため、為替変動の影響をほぼ受けなくすることができるのだ。
ただし、この「予約」にはコストがかかる。これを「ヘッジコスト」と呼ぶ。ヘッジコストは主に、2国間の短期金利差によって決まる。現在の日本と米国のように、日本の金利が低く米国の金利が高い状況では、円を売ってドルを買う予約(ヘッジ)をする際に、その金利差分のコストを支払う必要が生じる。このコストは投資信託の信託財産から差し引かれるため、その分リターンを押し下げる要因となる。
為替ヘッジのメリット・デメリット
為替ヘッジの有無を判断するためには、そのメリットとデメリットを正確に理解しておく必要がある。
- 為替ヘッジのメリット
- 将来の円高局面における資産価値の目減りを防ぐことができる。
- 為替変動の影響が排除されるため、基準価額の動きが純粋に投資対象資産(株式など)の値動きに近くなり、値動きが分かりやすくなる。
- 為替ヘッジのデメリット
- ヘッジコストが継続的に発生し、リターンを押し下げる要因となる。
- 円安が進行した際に得られるはずの「為替差益」を享受することができない。
あなたはどっち?為替ヘッジ「あり」「なし」の判断基準
では、具体的にどのような投資家が「ヘッジあり」と「ヘッジなし」のどちらを選ぶべきなのだろうか。明確な正解はなく、自身の投資方針によって判断は異なる。
「為替ヘッジなし」が向いている投資家
- 長期的な資産形成を目指す人
10年、20年といった長期スパンで見れば、為替レートは円高と円安を行き来し、変動が平準化される傾向がある。短期的な変動に一喜一憂せず、どっしりと構えられる長期投資家にとっては、コストを払ってまでヘッジをかける必要性は低いと言える。 - 円安によるリターン向上を期待する人
日本の財政状況や人口動態、日米の金融政策の方向性の違いなどから、中長期的にも円安基調が続くと考えるのであれば、「ヘッジなし」を選ぶことで為替差益を積極的に狙う戦略が有効となる。これは効果的な円安対策にもなり得る。 - ヘッジコストを避けたい人
特に現在のような日米金利差が大きい局面では、ヘッジコストも高水準となる。このコストがリターンを侵食することを避けたいと考えるならば、「ヘッジなし」が合理的な選択となる。
「為替ヘッジあり」が向いている投資家
- 短期的な資産の目減りを避けたい人
数年以内に資産を使う予定があるなど、投資期間が比較的短い場合、円高への急激な変動は大きなダメージとなりかねない。このような短期的な下落リスクを限定したい場合には「ヘッジあり」が有効である。 - 今後の円高転換を予測する人
米国の利下げや日本の金融引き締めなど、将来的に日米金利差が縮小し、円高方向にトレンドが転換すると強く予測するのであれば、「ヘッジあり」で為替リスクを遮断しておく戦略が考えられる。 - 投資対象の値動きに集中したい人
「為替のことは考えず、純粋に米国株市場の成長性に投資したい」という考え方もあるだろう。為替という不確定要素を排除し、投資判断をシンプルにしたい投資家にとって「ヘッジあり」は魅力的な選択肢となる。
まとめ:為替リスクを理解し、自分に合った商品を選ぼう
海外株式投資における為替リスクは、避けて通れない重要なテーマである。しかし、それはコントロール不可能なものではなく、「為替ヘッジ」というツールを理解することで、自身のリスク許容度に合わせて管理することが可能だ。
今後の市場を完璧に予測することは誰にもできない。だからこそ、自身の投資目的(長期か短期か)、為替相場に対する見方、そしてコストに対する考え方を明確にすることが重要となる。「長期・円安期待・コスト重視」ならヘッジなし、「短期・円高懸念・安定性重視」ならヘッジあり、というのが一つの判断基準となるだろう。
NISA口座でこれから投資信託を選ぶ際は、ぜひその商品の目論見書を手に取り、「為替ヘッジの有無」の項目を確認してほしい。その小さな確認が、あなたの将来の資産形成をより確かなものにするための、大きな一歩となるはずである。