積立投資の「最適な日」を巡る永遠の問い
NISAなどを活用した積立投資を始める際、多くの人が一度は頭を悩ませるのが「毎月何日に積み立てるのが一番得なのか?」という問題である。給料日直後の25日か、月初めの1日か、あるいは特定の曜日に設定すべきか。少しでも有利な条件で資産形成をスタートしたいという気持ちは当然であり、この最適なタイミング探しに時間を費やしてしまう人も少なくない。
しかし、結論から言えば、この「最適な積立日」を探す行為は、長期的な資産形成においてほとんど意味をなさない。本記事では、なぜそう言えるのかをデータと投資の基本原則に立ち返って解説し、積立日に関する迷いを解消する。
ドルコスト平均法の本質と積立日の関係
積立投資の根幹をなすのがドルコスト平均法という考え方である。これは、定期的に一定の金額で同じ金融商品を買い付け続ける投資手法だ。この手法の最大のメリットは、価格変動のリスクを平準化できる点にある。
具体的には、投資信託の基準価額が高いときには少なく、安いときには多くの口数を自動的に購入することになる。これを長期間続けることで、一口あたりの平均購入単価が抑えられる効果が期待できる。つまり、ドルコスト平均法の本質は「いつ買うか」というタイミングを計るのではなく、「時間」を味方につけて高値掴みのリスクを避け、淡々と資産を積み上げていくことにあるのだ。
この大原則に立てば、特定の積立日が他の日より圧倒的に有利になる、ということは考えにくい。なぜなら、長期で見れば特定の日が常に割安であるという保証はどこにもなく、価格は常に変動しているからである。
データで検証!積立日によるリターンの差は存在するのか?
理論だけでなく、実際のデータを見てみよう。過去の株価指数(例えば、S&P500や全世界株式インデックス)を対象に、毎月の積立日を1日から月末までずらした場合、最終的なリターンにどれほどの差が生まれるかをシミュレーションした分析は数多く存在する。
それらの分析が示す結果は、ほぼ共通している。それは、「積立日によってリターンにわずかな差は生じるものの、その差は長期的な資産形成の成果を揺るがすほどのものではなく、無視できるレベルである」という事実だ。
例えば、ある10年間のデータでは、最もリターンが良かった日と最も悪かった日の差が、最終資産額において1%未満だったという結果もある。「給料日後は買いが集まりやすいから価格が上がりやすい」「月末は機関投資家のリバランスで価格が動きやすい」といった、いわゆるアノマリー(経験則)が語られることもある。しかし、そうした短期的な価格変動の傾向を狙って最適なタイミングを掴もうとすることは、ドルコスト平均法の「時間分散」というメリットを自ら放棄する行為に他ならない。さらに、どの日に優位性があるかは、分析する期間や市場の状況によっても変わるため、普遍的な「正解」は存在しないのである。
「いつ積み立てるか」よりも重要な3つの要素
積立日の選択に悩む時間を、もっと本質的な要素の検討に使うべきである。長期的なリターンを決定づけるのは、積立日という些細な問題ではなく、以下の3つの要素だ。
1. 投資期間(1日でも早く始める)
資産形成における最大の武器は「時間」である。投資で得た利益がさらに利益を生む「複利の効果」は、期間が長ければ長いほど絶大な力を発揮する。「最適な積立日」を探して数ヶ月間投資を始められずにいるとすれば、その間に得られたはずの収益機会と複利効果を逃すことになり、その損失は、積立日の違いによるリターンの差など比較にならないほど大きい。
2. 積立金額(無理なく継続する)
ドルコスト平均法は、継続してこそ意味がある。家計を圧迫するような無理な金額設定をしてしまうと、相場の下落局面で不安に駆られて積立を停止したり、売却してしまったりするリスクが高まる。重要なのは、暴落時でも冷静に積立を続けられる、精神的に負担のない金額を設定することだ。積立日よりも、継続可能な積立額をいくらにするかの方がはるかに重要な決定事項である。
3. 投資対象(何に投資するか)
当然ながら、どのような資産に投資するかはリターンを大きく左右する。特定の積立日にこだわるよりも、自分のリスク許容度に合った、長期的な成長が期待できる投資対象(例えば、低コストで広範な分散が効いたインデックスファンドなど)を慎重に選ぶことの方が、将来の資産額に与える影響は計り知れない。
結論:悩む時間は無駄。今すぐ行動を
データと理論が示す通り、最適なタイミングとしての「最高の積立日」というものは、実質的に存在しない。積立日の違いによるリターンの差は、長期的に見れば誤差の範囲内である。
本当に重要なのは以下の3点だ。
- 1日でも早く始めること
- 無理のない金額で、長く継続すること
- 自分に合った、長期的な成長が見込める投資対象を選ぶこと
積立日に悩むのはもうやめよう。あなたが決めた日が、あなたにとっての「最適な積立日」だ。「給料日」「毎月1日」「忘れない記念日」など、自分が管理しやすく、忘れない日を積立日に設定し、今すぐ積立投資の第一歩を踏み出すべきである。
