NISAの落とし穴?損益通算できないデメリットと賢い課税口座活用術

投稿者: | 2025年11月22日

NISAの非課税メリットに潜む税制上の注意点

資産形成の柱として注目を集めるNISA(少額投資非課税制度)。その最大の魅力は、なんといっても運用益が非課税になる点だ。しかし、この強力なメリットの裏側には、知っておかなければ思わぬ損失につながりかねない税制上のルールが存在する。それが「損益通算ができない」という点である。本記事では、このNISAのデメリットともいえる仕組みを深掘りし、課税口座と組み合わせた賢い資産運用戦略について解説する。

NISAの大きな注意点「損益通算」ができない仕組み

NISAの特性を理解する上で、損益通算の概念は避けて通れない。なぜNISAではこの仕組みが適用されないのか、その理由から見ていこう。

そもそも損益通算とは?

損益通算とは、同一年内の異なる金融商品の取引で生じた利益(譲渡益)と損失(譲渡損失)を相殺する税制上の仕組みである。例えば、課税口座(特定口座や一般口座)でAという投資信託を売却して30万円の利益が出たと同時に、Bという株式で10万円の損失が出たとしよう。この場合、利益と損失を合算し、課税対象となる利益は20万円(30万円 – 10万円)に圧縮される。これにより、支払う税金を抑えることが可能だ。これは、複数の金融商品を運用する投資家にとって重要な税負担軽減策の一つである。

なぜNISAでは損益通算ができないのか?

NISA口座が「非課税」であることが、損益通算できない直接的な理由だ。税法上、NISA口座内で発生した利益や損失は、はじめから「存在しないもの」として扱われる。利益が出た場合に課税されないのは大きなメリットだが、その裏返しとして、損失が出た場合も税金の計算上、その損失は一切考慮されない。つまり、NISA口座で発生した損失を、課税口座で得た利益と相殺して税金を減らす、といった使い方ができないのである。この点が、NISAを利用する上での最大のデメリットであり、注意点となる。

損益通算不可がもたらす具体的なデメリット

「損益通算ができない」という事実が、実際の運用においてどのような影響を及ぼすのか。具体的なケースを想定して確認してみよう。

ケース1:課税口座との利益を相殺できない

以下のような状況を考えてみる。

  • NISA口座で運用していた商品Aで、20万円の損失が発生した。
  • 課税口座(特定口座)で運用していた商品Bで、30万円の利益が発生した。

もし、商品Aも課税口座で運用していた場合、損益通算が可能だ。利益30万円から損失20万円を差し引き、課税対象は10万円となる。所得税・住民税(復興特別所得税含む)を約20.315%とすると、税額は約2万円だ。

しかし、商品AがNISA口座での損失であるため、この損失は税計算上「ないもの」とされる。その結果、課税口座の利益30万円がそのまま課税対象となり、税額は約6万円にもなる。損益通算ができないだけで、税負担が約4万円も増えてしまう計算だ。これがNISAのデメリットが顕在化する典型的なパターンである。

ケース2:NISA口座内での損益通算も不可能

さらに注意すべきは、NISA口座「内」でも損益通算はできないという点だ。例えば、同じNISA口座内で、投資信託Cで40万円の利益を確定させ、同時に株式Dで10万円の損失を確定させたとしよう。この場合でも、利益と損失を相殺することはできない。もちろん、40万円の利益は非課税なので税金はかからないが、10万円の損失はどこにも活かすことができず、単に切り捨てられることになる。

デメリットを理解した上での賢いNISAと課税口座の併用戦略

損益通算ができないというデメリットを理解した上で、NISAと課税口座をどのように使い分ければ、より効率的な資産形成が可能になるのだろうか。その戦略を具体的に提案する。

課税口座の賢い使い方:リスク許容度に応じた役割分担

一つの有効な戦略は、運用する商品のリスク特性に応じて口座を使い分けることだ。

NISA口座:長期・安定運用を基本に

NISA口座の非課税メリットを最大限に享受するためには、長期的に安定したリターンが期待できるインデックスファンドや、配当・分配金が期待できる高配当株・REITなどを中心に据えるのが合理的だ。短期的な価格変動で売買を繰り返すと、損失が出た際のデメリットが際立ってしまう。NISAは「じっくり育てる」運用に向いていると心得よう。

課税口座:短期・中期的、またはハイリスクな投資に

一方で、値動きが激しく、大きなリターンも大きな損失も想定される個別株やアクティブファンドなどは、あえて課税口座で運用するという選択肢がある。万が一、大きな損失が発生した場合でも、他の商品の利益と損益通算することで税負担を軽減できるからだ。さらに、課税口座には「繰越控除」という制度もある。これは、損益通算してもなお残った損失を、翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の利益と相殺できる制度だ。この税制上の柔軟性は、課税口座ならではのメリットといえる。

結論:制度を理解し、戦略的な口座の使い分けを

NISAの非課税メリットは非常に強力だが、「損益通算ができない」という無視できないデメリットも併せ持つ。この特性を理解せずにいると、トータルのリターンで見たときに、かえって税負担が重くなるケースも起こり得る。重要なのは、NISAは万能ではないと認識し、自身の投資スタイルやリスク許容度に応じて課税口座と明確に役割分担させることだ。長期安定成長はNISAで、リスクを取った運用は損益通算が可能な課税口座で、というように使い分けることが、賢い資産形成への第一歩となる。まずはご自身のポートフォリオを見直し、NISAと課税口座の最適なバランスを検討してみてはいかがだろうか。

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