「全世界株式」 vs 「米国株+先進国株+新興国株」:自作オルカンの是非
投資信託の運用において、「資産配分」は極めて重要な要素である。特に、全世界株式に投資できる投資信託として人気の「オール・カントリー・エクスペிற்(以下、オルカン)」は、手軽に分散投資ができる商品として多くの投資家に支持されている。しかし、より細かく資産配分をカスタマイズしたいと考える投資家の中には、「オルカンを自作できるのではないか?」と考える人もいるだろう。本記事では、オルカンを自作するメリット・デメリット、そして信託報酬の差をシミュレーションし、その是非について考察する。
オルカンとは?その魅力と限界
オルカンは、その名の通り、全世界の株式市場に投資する投資信託である。一般的には、先進国株式と新興国株式を組み合わせたものを指すことが多い。この投資信託一本で、地域や国の分散が図れるため、初心者から経験者まで幅広い層に人気がある。値上がり益(キャピタルゲイン)と配当金(インカムゲイン)の両方を狙える点も魅力だ。
しかし、オルカンはあくまで「パッケージ商品」である。そのため、投資家が個別の地域や国の比率を自由に調整することはできない。例えば、「米国経済の成長が鈍化しそうだから、米国株の比率を少し下げたい」「新興国経済のポテンシャルに期待して、新興国株の比率を増やしたい」といったニーズには応えられないのが現状である。
オルカンを「自作」するとは?
オルカンを自作するとは、具体的には、以下の3つの投資信託を組み合わせて、オルカンと同様の資産配分を目指すことを指す。
- 先進国株式に投資する投資信託
- 新興国株式に投資する投資信託
- (必要であれば)日本株式に投資する投資信託
例えば、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)の構成比率を参考に、先進国株式と新興国株式の比率を決定し、それぞれに投資する投資信託を購入する。これにより、オルカンと同様の分散効果を得つつ、個別の資産配分の比率を自由に調整することが可能になる。
自作オルカンのメリット・デメリット
メリット
- 資産配分の自由度向上: 投資家自身の相場観やリスク許容度に合わせて、地域別・国別の比率を細かく調整できる。例えば、米国株の比率を下げ、欧州株やアジア株の比率を高めるといった運用が可能になる。
- 信託報酬の最適化の可能性: 個別に投資信託を選ぶことで、より信託報酬の低い商品を選択できる可能性がある。後述するシミュレーションで詳しく見ていく。
デメリット
- 手間と知識が必要: 複数の投資信託を選ぶ必要があり、それぞれの特徴や信託報酬などを比較検討する手間がかかる。また、資産配分の比率決定やリバランスの頻度など、ある程度の知識も必要となる。
- リバランスの手間: 複数の投資信託を保有する場合、定期的に各資産の比率を確認し、当初の配分に戻す「リバランス」が必要になる。この作業を怠ると、意図しない資産配分になってしまうリスクがある。
- 特定口座・NISA口座での管理: 複数の投資信託を保有すると、特定口座やNISA口座での管理が煩雑になる可能性がある。
信託報酬の比較シミュレーション
オルカンを自作する際の最も分かりやすいメリットの一つが、信託報酬の低減の可能性である。ここでは、代表的なオルカンファンド(仮に平均信託報酬0.15%とする)と、自作した場合の信託報酬を比較してみよう。
【自作オルカンの例】
- 先進国株式インデックスファンド(eMAXIS Slim 先進国株式インデックスなど):信託報酬 0.10%
- 新興国株式インデックスファンド(eMAXIS Slim 新興国株式インデックスなど):信託報酬 0.20%
- 日本株式インデックスファンド(eMAXIS Slim 国内株式(日経平均)など):信託報酬 0.15%
仮に、ACWIの組入比率(2023年12月末時点の目安)を参考に、先進国株式85%、新興国株式15%でポートフォリオを組んだ場合、各ファンドの組入比率に応じた加重平均信託報酬は以下のようになる。
加重平均信託報酬 = (0.10% × 0.85) + (0.20% × 0.15) = 0.085% + 0.03% = 0.115%
この例では、自作した場合の加重平均信託報酬は0.115%となり、オルカンファンド(0.15%)と比較して年間あたり約0.035%のコスト削減が可能となる。投資元本が1,000万円の場合、年間で3,500円の節約になる計算だ。長期投資になればなるほど、この差は複利効果によってさらに大きくなる。
ただし、これはあくまで一例である。個別に選択する投資信託の信託報酬や、ポートフォリオの組成的によって、結果は変動する。また、自作する際に選択する投資信託の信託報酬が、オルカンファンドよりも高い場合もあり、必ずしもコスト削減につながるとは限らない点に注意が必要である。
リバランスの重要性
自作オルカンの運用において、リバランスは避けては通れない重要なプロセスである。市場の変動により、各資産の比率は常に変化する。例えば、米国株式市場が好調だった場合、ポートフォリオにおける米国株式の比率が当初の想定よりも高くなる可能性がある。
リバランスを行わないと、当初想定していたリスク水準を超えてしまう可能性がある。また、利益を確定させる機会を逃してしまう可能性もある。リバランスの方法としては、定期的に(例えば半年に一度、一年に一度など)ポートフォリオ全体を見直し、当初の資産配分比率に戻す作業を行う。
結論:自作オルカンは「選択肢の一つ」
オルカンを自作することには、資産配分の自由度を高め、信託報酬を低減できる可能性があるというメリットがある。特に、ご自身の相場観に基づいて細かく資産配分を調整したい、あるいは徹底的にコストを削減したいと考える投資家にとっては、魅力的な選択肢となり得るだろう。
しかし、その一方で、自作には手間と知識が必要であり、リバランスなどの運用管理の手間も増えるというデメリットも存在する。また、必ずしも信託報酬が安くなるとは限らない点にも留意が必要である。
結局のところ、オルカンを自作するかどうかは、個々の投資家の目的、知識レベル、そして運用にかけられる手間によって判断が分かれる。手軽に全世界分散投資を始めたいのであれば、既存のオルカンファンドを選択するのが合理的である。一方、より能動的にポートフォリオを管理し、細かな調整を行いたいのであれば、自作オルカンも有力な選択肢となるだろう。ご自身の投資スタイルに合った方法を選択することが、長期的な資産形成の鍵となる。

